グループ会社の採用課題は母集団形成と認知度向上

―日本郵船および日本郵船グループの採用において、どのような課題を感じていますか。

日本郵船 白石氏:海事産業は特に船員の採用が難しく、人材不足が悩みの種です。2022年ころからは、グループ会社から採用難を訴える声が上がるようになりました。中でも、説明会参加や選考エントリーの学生が少なく母集団形成が大きな課題になっています。この背景として、採用市場全体においては日本郵船の知名度がそこまで高くないこともあり、認知度の向上が必要だと感じていました。

日本郵船株式会社
グループ経営推進グループ
国内グループ経営サポートチーム
白石瑠音氏

ユニエツクスNCT 出村氏:とはいえ港湾系の物流会社である当社にとっては、日本郵船グループというのは強みの1つになるのですが、社名に「郵船」と付いておらず、社名だけでは何をしている会社かわかりづらいため、学生に日本郵船グループと認識してもらえないことは課題の1つです。今、中途採用に取り組んでいますが、メールの件名に日本郵船グループと入れると、返信率が高くなっている気がしています。

株式会社ユニエツクスNCT
人事グループ
人事チーム
チーム長
出村悦子氏

―課題を解決するために、どのような対応をされているのでしょうか。

日本郵船 小笠原氏:当社は中期経営計画で、グループ企業の力を最大限に発揮できる組織になることを掲げています。2022年には、国内グループ経営サポートチームが新設され、グループ会社に顔が見える支援をしていこうと活動してきました。

そうした中、グループ会社からの人材確保の要望に応えるため、グループ会社の直接の声を聞くヒアリングの機会を設け、採用支援施策を検討、実施してきました。具体的には、コロナ禍でオンラインのみとなっていたグループ合同の採用説明会の対面開催を再開したり、グループ会社の採用担当者同士で意見交換を行う座談会を昨年度初めて開催したりしました。

日本郵船株式会社
グループ経営推進グループ
国内グループ経営サポートチーム
小笠原崇氏

自社の魅力として「何を」伝えるのかに焦点

―施策の1つとして行った2024年度の採用担当者座談会は、どのように企画されましたか。

日本郵船 白石氏:2023年秋に、グループ会社の採用担当者40人ほどに集まってもらい、採用担当者座談会を初めて開催しました。母集団形成に課題を抱えているグループ会社が多かったため、その出発点として、自社の採用における課題の認識と、欲しい人材要件の明確化や選考中の動機付けについて議論しました。

その上で、2024年度は次のステップとして、どのように母集団形成していくのか、今後のアクションプランをグループ会社に明確にしてもらう機会としたいと考えました。また、参加者間の交流を増やし、グループ会社の採用担当者間での横のつながりを作ることも目指しました。

―そうした施策実施の支援企業として、当社を選んだ理由をお聞かせください。

日本郵船 白石氏:複数社から提案いただきましたが、揚羽さんの提案はとてもユニークなものでした。当初私たちは、どのようにして母集団形成をしていくかをグループ会社が明確にできることを最も意識していました。それに対して、揚羽さんの提案は、一歩戻りまずは「何を」自社の魅力として伝えるかに焦点を当てていて、それを理解した上で担当者がアクションプランを考えるというものでした。

考えてみれば、グループ会社にアクションプランを立てるように言っても、伝える中身や魅力が曖昧ではプランの立てようがありません。提案内容は採用ブランディングに強みを持つ揚羽さんの実績に基づいており、納得がいくものであったため、揚羽さんに依頼することに決めました。

揚羽 渡辺:提案依頼を受けた時に、「グループ会社が座談会終了の翌日から、すぐに行動できることを重視している」という話はお聞きしていました。ただ、いきなりコミュニケーションツールやWebサイト、認知度を高めるための広告を配信しようとしても難しいでしょう。

私たちもお客様に何か提案する際には、自分たちの魅力やクライアント企業の魅力を整理、言語化してから提案します。同じステップを踏んでやっていく方がよいと考えて、提案内容をブラッシュアップしました。

株式会社揚羽
ブランドマーケティング第1部
ブランドマーケティング4グループ
渡辺樹

揚羽 下田:その他で意識したのは、様々なグループ会社の方たちに集まっていただくので、一方的なインプットではなく、それぞれの企業が持つ採用活動のノウハウを学び合える場にすることでした。そこで自社の魅力を書き出し、言語化するなど、積極的にアウトプットする時間を設けました。

5軸フレームを活用し、自社の魅力を洗い出す

―実施したグループ会社採用担当者座談会の具体的な内容を教えてください。

揚羽 下田:座談会では「自社の魅力理解による、母集団形成の強化」をテーマに、採用ブランディングの考え方の解説、2つのワークショップ、事例紹介を行いました。1つ目のワークショップは自社の魅力の整理で、「業界、個社、仕事、キャリア、人・社風」といった5軸フレームを活用した魅力の洗い出し、「ターゲット、競合、自社」という3Cフレームを活用した独自性の検討、求める人物像を意識したキーワード抽出を行い、グループでシェアしました。

もう1つのワークショップはターゲット学生に刺さる魅力の抽出で、1つ目のワークで整理した結果だけではなく、採用SWOT分析の考え方を活用して、例示した学生像に対する魅力の伝え方を検討し、こちらもグループで共有してもらいました。

日本郵船 白石氏:この座談会は、大成功だったと感じています。担当者が採用に関する知識を得られたのはもちろん、グループ会社間の交流を通して関係を築くこともできました。ワークは果たして上手くいくかどうか不安もありましたが、まずは選択肢から選んで、その後にキーワードを考えていくという流れがとてもよくできていたので、スムーズに実施できました。上手くいったのは、何より揚羽さんのお力添えのおかげでしょう。

ユニエツクスNCT 出村氏:参加者として、自社の魅力を言語化するのは、なかなか難しい作業でした。ただ他のグループ会社から羨ましがられる部分があって、それが魅力ではないかと気づくことができた点は、新たな発見です。今、日本郵船グループの採用サイト(2024年末に公開)を更新していますが、そこに掲載する自社のアピールポイントについて、ワークショップの内容を基に書いてみてくださいというアドバイスを受けて、魅力として挙げたキーワードを集めて、原稿のアイデアとしました。

揚羽 渡辺:ワークショップの内容は、お客様にブランディングの提案をする際の当社のフローを参考にしています。ただ、外部視点からのアプローチでは上手くいっても、グループ会社の皆さんが自分たちで取り組むと書きづらいのではないかと考えていました。そこで、事前に社内でリハーサルを繰り返し、プログラムの順番やワークシートの微調整をするなど、入念な準備を行って、当日に臨みました。

日本郵船 小笠原氏:そういった丁寧な準備は大変有り難かったですね。そのおかげもあり、ワークショップはどのグループもとても盛り上がっていました。ファシリテーターとして日本郵船の社員を各グループに配置していましたが、それも必要のないくらい、自然発生的に活発な議論ができたと思います。

採用後の定着やエンゲージメント向上も見据える

―採用担当者座談会を受けての採用活動の変化や、今後の取り組みについてお聞かせください。

ユニエツクスNCT 出村氏:昨今は、社会生活を支えるエッセンシャルワーカーに注目が集まっていることもあり、当社の求人に目を向けてくれる学生さんも増えた気がします。今後は、採用担当者座談会で得たヒントを基にして、新たに築かれたグループ会社との協力関係などを生かしつつ、積極的に採用活動を進めていきます。

日本郵船 白石氏:座談会を通じて、グループ会社の生の声や意見も聞けましたので、それを今後の採用支援施策に反映させていきたいです。実施後のアンケートでも、「自社の強みを言語化できた」「座談会に参加しなかった担当者に対しても、ワークをやってみようと思う」といった前向きなコメントが数多くありました。

これらが今後の採用活動に活きてくるのではないかと期待しているところです。各社の採用が軌道に乗ってきたら、採用後の定着や育成、キャリア形成、グループとしてのエンゲージメント向上にも役立てたいと思います。

日本郵船 小笠原氏:私たち国内グループ経営サポートチームとしては、グループ会社に入社した社員の方が、日本郵船グループの一員であることを実感できる機会を増やしたいと考えています。水上運動会やスポーツフェスティバルのような一体感を感じられるようなイベントも既に実施していますが、今後は入社した時点でもそういった機会を企画、実施できればと考えています。