超実践・人的資本経営「人的資本経営による長期的ブランド価値の創出プロセスとは」

皆様、こんにちは。ブランドのマーケティング部石田です。

 
2022年11月1日(火)に、株式会社文藝春秋主催のカンファレンス「企業価値向上の“ど真ん中” 超実践・人的資本経営~「人」への投資の可視化と価値創造の実践知~」に、弊社SXコミュニケーションプランニンググループ グループ長の黒田天兵が登壇しました。『人的資本経営による長期的ブランド価値の創出プロセスとは』というテーマで、「人的資本経営」と「コーポレートブランド」の関係についてブランディングの観点からその本質について解説。また人的資本経営を導入するプロセスや進める上で障壁となる項目についてもお話ししました。

 

講演内容のサマリーをご紹介いたします。

 

人的資本経営とコーポレートブランドの関係

黒田天兵
スピーカー:黒田 天兵
株式会社揚羽
SXコミュニケーションプランニンググループ
グループ長

 
本章では、コーポレートブランディングの観点から人的資本経営の本質について解説します。

 

まずは、コーポレートブランディングの歴史を簡単に振り返ります。1980年頃からコーポレートブランディングは注目されるようになりましたが、当初はデザインとしての側面が非常に強くありました。その後、企業と人(生活者)が様々な接点をもつことが増え、それに伴って社会の中で企業がどうあるべきなのかが問われるようになりました。そうした傾向は続き、2020年頃にはサステナビリティやSDGsなど社会全体が掲げる課題に対して、企業がどのような価値を提供できるのか問われる時代になっています。

 
コーポレートブランドの歴史
 

続いて、昨今重視されているサステナビリティとはどんな時代であるのかについて、ブランドの観点から振り返ります。生物多様性が損なわれていることやCO₂の排出量の増大など、地球環境は経済や政治の土台を揺るがすほどに厳しい状況にあることが様々な科学者の調査で明らかになっています。

 

こうした背景もあり、企業の存在意義は売り上げや利益がどれほど出たのか、株主からいかに評価されるのかという観点だけでなく、地球のためや様々なステークホルダーのためにあるという点でも評価されるようになり、その価値は変遷しています。

 

一例として、直近数年間におけるESG情報への注目度も増していることが挙げられます。財務諸表にある情報だけではなく、非財務情報への注目も年々増しています。2020年代は、ESG情報の環境(Environment)について、企業がどのように対応していくべきかが重視されています。
 

サステナビリティの時代 ESGの情報開示

 
こうした時代背景もあり、2050年、2100年に達成するゴールとして、世界中の企業が長期ビジョン、パーパスを掲げるようになりました。

 
一方で、企業は長期目標を掲げるだけでは企業同士の差別化が難しくなっていると言えます。

 

長期のビジョン・パーパスを掲げる企業が急増
 

長期ビジョンやパーパスを掲げることは当然意味がありますが、掲げた先に人々がその企業のブランドに期待し、信頼を得ていくためには何をすべきなのかを考えなければなりません。

 

下図は企業の成長グラフを示しています。長期ビジョンやパーパスを実現するためには、今までの通りの成長曲線では到達は難しいかと思います。目的地に迫るためには、成長スピードを上げるための変化が必要です。既存事業の延長上にあるもの以上の成長ができる、成長ために変化していける会社が信頼、期待を得ていくのだと思います。

 
長期ビジョン・パーパスの次にコーポレートブランドに求められるもの
 

続いて、企業は信頼、期待を得ていくために何を示す必要があるのか、よく話題に上がるものとして、「リスキリング」「エンゲージメント」「心理的安全性」「リーダーシップ」「ダイバーシティ」「 優秀な人材がたくさん採用できること」「女性活躍」「生産性が高い」などの様々な項目がありますが、実はこれらは全て人的資本経営の開示項目に含まれています。

 
人的資本経営の項目

 

この観点について、すでに様々な専門家が検証をしており「組織文化」の優先度が非常に高いと言われています。 VRF(Value Reporting Foundation)が出すレポートによると、人的資本領域の優先度として「組織文化」が非常に高いことがわかります。

 
また、求められる組織文化とはどんなものでしょうか。この答えは「挑戦し続ける組織文化をいかに作れるか」という点にあると思います。
 

組織として新たな挑戦や変革を許容する文化があることにより、企業は目指すべきゴールに対して変化し、成長していくことができるのです。今までのビジネスの延長だけではパーパスの達成は難しいと思われます。 パーパスを実現するために、イノベーションや変革を起こす、それを実現する社員の背中を押す組織文化があるかどうかが非常に重要です。また、そうした文化をもつことはコーポレート ブランドとしてその企業らしさを表現するものにもなります。イノベーションを起こす根拠として、挑戦し続ける組織文化があるかどうかが、今後のコーポレートブランドにおいて、パーパスの次に注目されるものだと考えています。
 

人的資本経営とコーポレートブランドの関係
 

人的資本経営の導入プロセス

人的資本経営の導入プロセスには大きく5つのプロセスがあります。

  1. 自分たちの現状(As is)を知る現状調査・定量化する
  2. 組織、人のありたい姿(TO BE)を定義する
  3. 理想と現実のギャップを埋めるために、 KPIの設定と予算配分を行う
  4. 定めたKPIに対する施策を計画、実行プランを立案し、施策を実施する
  5. 実施した結果どうだったのか、効果を見ながら、プランに立ち返ること繰り返しながらKPIを達成していく

 

組織として新たな挑戦や変革を許容する文化があることにより、企業は目指すべきゴールに対して変化し、成長していくことができるのです。今までのビジネスの延長だけではパーパスの達成は難しいと思われます。 パーパスを実現するために、イノベーションや変革を起こす、それを実現する社員の背中を押す組織文化があるかどうかが非常に重要です。また、そうした文化をもつことはコーポレート ブランドとしてその企業らしさを表現するものにもなります。イノベーションを起こす根拠として、挑戦し続ける組織文化があるかどうかが、今後のコーポレートブランドにおいて、パーパスの次に注目されるものだと考えています。

 
人的資本経営の導入プロセス
 

人的資本経営の各プロセスのポイント

ここからはそれぞれの工程について1つずつ解説していきます。
 

プロセス1:現状調査・定量化

①自分たちの現状(As is)を知る現状調査・定量化する
ISOの制定したIS300414が大変注目されていますが、その他にも世界経済フォーラムから
ステークホルダー資本主義測定指標やSASBスタンダード、GRIスタンダードなどが代表的な指標としてあります。
 

日本でも、有価証券報告書やコーポレートガバナンスコードでも開示が義務化されていきますので、何を開示しなくてはいけないのかという情報は常に収集する必要があります。
 
現状調査・定量化(As Is)
 

プロセス2:人・組織の在り姿

②組織、人のありたい姿(TO BE)を定義する
現状を把握した後に、どんな組織としてありたいのか(TO BE)を策定します。

 
そもそも「企業」というのは概念の集合体です。企業には社名があり、その企業たらしめる概念があり、そうした概念の集合体に人が集まり事業を営んでいるというのが企業の姿かと思います。「企業」として認識されるためには、構成要素として7つの概念があります。

 

  1. 自分たちが今置かれている「現状」
  2. それに対して「なりたい姿」
  3. なりたい姿を実現した先に社会対して提供する「価値」
  4. なりたい姿を実現した顧客に対して提供する「価値」
  5. 理想を実現するための「戦略、戦術」
  6. 1人1人の社員が取るべき「理想的な行動」
  7. 企業が成長していく中でも大切にしていきたい「価値観、文化、強み」

 
これらの7つの言葉を、様々な企業がブランド体系のような形で掲げています。2、3、4つ目は「長期ビジョン」「パーパス」、7つ目がそうした変革の土台となる「組織文化」に該当します。企業のありたい姿を定義する上では、「長期ビジョン」「パーパス」と「組織文化」の2点が特に重要になってきます。
 

今現在、企業として掲げている言葉が、7つの要素のどこに当てはまるのかを考えながら、不足している要素について定義していくことが必要です。
 

自分たちは、50年後、100年後の将来においてどんな風な企業でありたいのかという全体像をこうしたフレームに基づいて定義したうえで、人的資本経営の項目を経営戦略と紐づけていくという全体像です。

 
組織・人の在り姿について(To Be)
 

プロセス3:優先項目KPI・予算配分

③理想と現実のギャップを埋めるために、 KPIの設定と予算配分を行う
ISO30414を一例として見てみると、人に関するあらゆる情報が含まれています。項目の中には現時点ですでに数値を計測しているものもあるかと思います。一方で、数値を取っていないものも多数あるかと思います。まずはこうした項目に則って、数値を算出し、現状と理想のギャップをとらえるためにどの観点が重要であるのかを考えてみるのが大切だと思います。
 

優先項目KPI・予算配分(アロケーション)
 

またKPI設定は、ありたい姿とのGAPを埋めるために設定しますが、KPIもその会社独自のKPIを持っていると、社員に対してもわかりやすいですし、社会に対しても人的資本経営の投資先の差別化要素になります。他社動向やトレンドに左右されない固有のKPIを設定することをお勧めします。
 
他社動向・トレンドにとらわれないKPI設定
 

KPIを設定した後の予算配分について、これまでの人に関する予算は、主に優秀な人材をもっと採用するための採用予算や教育予算などに主に当てられてきました。
 

人材も採用してからの数年間は、企業が投資した以上に利益を生み出すことはない時期があります。企業が投資を続ける中で、どこかで一人前になりその企業に投資した以上のリターン、価値を生み出せるようになります。企業によって、一人前になるまでの期間にばらつきはあると思いますが、人材が成熟し、一人前になった後は放っておくという企業が非常に多いです。

 
企業は、むしろそうした一人前の人材にこそ投資し、社会や人のため、パーパスの実現のためにより長く貢献してもらい、価値を発揮し続けてもらうために予算を割いていくことが大切だと思います。こうした、人材が成熟化した後に投資する予算を「定着予算®」と呼びます。

 
日本全体の労働人口は年々減少しています。リソースは限りあるからこそ、人事の予算のあり方を見直すことも必要であると考えます。

 
定着予算®という考え方

 

プロセス4:施策実施

④定めたKPIに対する施策を計画、実行プランを立案し、施策を実施する
施策の種類は大きく分けて2つしかありません。1つ目は、ファンクショナルな施策です。例えば、挑戦する文化が組織のあり姿だとすれば、挑戦することを称賛する項目を社員の評価制度に組み込むことや挑戦的な行動を奨励するイベントを設定するなど、定期的な仕組みによる施策が該当します。

 
2つ目は、エモーショナルな施策です。仕組みとして強制することにより、無理矢理感が出てしまう、そうすると人は自発性が失われてしまう可能性があります。
ファンクショナルな施策と並行して、その人の心に訴えかけ、自分たちの仕事が何のためにあるか、意義を問い返すなど、感情に訴えかける施策も必要です。
 
ファンクショナル・エモーショナルな施策実行
 

プロセス5:効果検証

⑤実施した結果どうだったのか、効果を見ながら、プランに立ち返ること繰り返しながらKPIを達成していく
様々な施策を実施して終わりではなく、従業員アンケート等で実施した結果を把握し、調整していくことが必要です。

 
世の中には様々な調査方法があります。昔は年1回のサーベイ調査を行うのが主流でしたが、最近はパルスサーベイのような1週間に1回程度の短いペースで調査を行っていく方法もあります。

 
調査項目についても、エンゲージメントは非常に注目されていますが、その他にも心理的安全性や従業員満足度など様々な指標があります。
 

自分たちの組織の理想に対して現状を把握するための効果測定を行い、その結果を受けて都度打ち手を考え、繰り返し改善のためのアクションを行っていくことが大切です。

 
 
サーベイなどでの効果検証
 

まとめ

人的資本経営は、コーポレートブランドにとって長期ビジョンパーパス実現の手段です。

 
数ある項目の中でも、「挑戦し続ける組織文化」があることが重要であると言えます。人的資本経営の導入には5つのプロセスがあります。プロセスは単純ですが実施していく上では障壁となるポイントが多数あります。

 
従来の採用、教育にフォーカスするのではなく、ターゲットを優秀な人材に設定し、人材の定着にも予算を配分しながら、組織文化を形成していくことが必要です。

 
また、効果測定は計測ツールではなく、どれだけ理想像の達成のためにトライ&エラーを繰り返すことができるのかが肝心です。

 
以上、2022年11月1日(火)開催「企業価値向上の“ど真ん中” 超実践・人的資本経営~「人」への投資の可視化と価値創造の実践知~」の講演レポートでした。
 

今後も皆さまのお悩みを解消できるようなセミナーを随時開催していきますのでご期待ください。