SDGs時代の新ブランド論

昨今、脱炭素・生物多様性・人権などのテーマがサプライチェーン上の取引先選定の基準にも影響するようになり、上場・非上場問わず、業種・業態問わず、あらゆる企業にとって、SDGsと向き合う意識なしではビジネスとしての存続・生き残りができない時代になりました。社会的価値と経済的価値の両立をしつつ、いかに企業は自社のブランド価値を向上させるか?先駆け企業の取り組みからその方法論を解説します。

なぜサステナビリティ経営に舵を切る企業が増えてきているのか

2021年頃から、サステナビリティ経営(SDGs経営・ESG経営・CSV経営)に舵を切ると発表する企業が急増しています。SDGsという概念は2015年、ESGやCSVという概念はそのもっと前の2000年代から登場していたのですが、ここまで注目されるようになった理由は、ビジネス取引の際に情報開示を求められるようになってきたことが挙げられます。

これまでは、SDGsは正直一部の業種・業態の先駆け企業にとっての関心ごとで、このテーマに経営として本気で取り組む企業は多くはなかったのが実状です。しかしそうも言えなくなってきました。例えばとある欧州市場にビジネス展開している製造業メーカーでは、取引先企業から「脱炭素や人権に対する目標数値と具体的な取り組みを提出してください。それがないと取引が継続できない」と言われたそうです。こうした状況を受けて、焦って「うちもそろそろ本気で取り組まなくては」と取り組みを始めるようになってきているのです。

SDGs時代、企業が求められることの本質とは?

SDGs時代、企業が求められることの本質とは?

しかし、サステナビリティ経営に舵を切る、といってもまずは何をすればいいのか?その本質は上の図の通り、2種類に分けられます。一つが、「国際社会の要請に応えること」。つまり、やらないと叩かれてしまうリスクへの対処であり、言わば“同質化”の取り組みです。現状、日本企業はまずはこの“同質化”への取り組みを開始しています。しかし他の企業と同じ取り組みをするだけでは、その企業が選ばれる理由にはなりませんので、同時にもう一つの取り組みが必要です。それはすなわち「ビジネスとしての成長戦略を描きなおすこと」、つまり“差別化”の取り組みです。

SDGs時代、企業は生き残りをかけて、この“同質化”と“差別化”に同時に取り組まなくてはなりません。企業のリソースは有限ですので、この2つが重なり合う部分を見つけ出し、注力することが、今の時代求められていることの本質と言うことができます。

SDGs時代、ブランドの在り方はどう変わるか?

SDGs時代、ブランドの在り方はどう変わるか?

まず欠かせないのは、あらゆる判断においてパーパスを優先するという経営への移行です。パーパスとは、企業の存在意義のことです。そして、それは株主だけでなく、顧客、従業員、サプライヤー、活動を行う地域・関係者をしっかりと含めたものでなければならないと言われています。そして、それに覚悟を持って本気で取り組むことが求められます。

パーパスをまずは組織として掲げること。これはSDGs時代のブランディングにおける一丁目一番地ということができます。

パーパスを掲げたら、それを社内外に発信していくフェーズになりますが、しかしここでも従来通りのアプローチをしてしまうと、うまくいきません。

図にも示した通り、従来のブランドアプローチはそのゴールには主に「競争優位性の獲得」が置かれています。要は「選ばれる理由」を明確にするということです。従業員に求められることは、提供価値・振る舞いにいたるまでの一貫性と、独自性の追求、そして選択と集中です。しかし、SDGs時代に求められるのはその逆で、そのゴールには言わば「共創優位性」の獲得があります。簡単に言えば「仲間づくり」です。従業員には個々の多様性の発揮とコラボレーション、越境して他者との協業、新たな領域への積極的なチャレンジが求められるのです。

共創を実現するパーパス運用論「3P」™とは?

共創を実現するパーパス運用論「3P」™とは?

では、「共創優位性の獲得」「仲間づくり」のために企業はどのような考え方に基づき、コミュニケーション計画を練り直さなくてはならないのか? そこでご紹介したいのが上記の図のフレームです。コーポレートブランディング支援を行う弊社(揚羽)は、各社の取り組みやご状況をお伺いするなかで共通するポイントを3つに分類し、整理しました。それが「共創を実現する パーパス運用論『3P』™」です。

パーパスとは企業の「存在意義」を規定したもので、これまでの経営理念よりも「社会とのつながり」を意識して策定されたものです。SDGsやサステナブルな取り組みが推奨されるなか、各社がパーパスの策定を行っている状況にあります。企業によっては、それがビジョンやフィロソフィーとして策定される場合などもあり、表現方法自体はさまざま。多くの企業はパーパスを策定した後に具体的な行動が見えず、言葉だけが宙に浮いてしまっている場合も多くあります。パーパスを掲げた後に具体的にどのような取り組みを行っていくべきか、その指針を示したものが「共創を実現する パーパス運用論『3P』™」です。

3Pは「(1)Passion(宣言 /経営の意思表示)」「(2)Project(プロジェクトの発足)」「(3)Process(プロセスの共有)」の3つのPから構成されます。ここからは各要素の具体的な説明を行います。

(1)Passion(宣言 / 経営の意思表示)

まずはPassion。これは企業としての変革への強い意志・決意を固め、経営層から社内外へとメッセージを伝えるフェーズです。一つの部署内の取り組みのように局所的なものではなく、全社としてそのパーパスの実現に向けて変革を行うことを示す必要があります。発信の内容はゴールや行動方針が具体的な方が理想です。明確な言語化を行うことで経営としてのコミット具合を感じることができます。

例えば、東急建設のVISION2030。「0へ挑み、0から挑み、環境と感動を未来へ建て続ける。」をビジョン(パーパス)とし、2030年の目指す姿として「脱炭素」「廃棄物ゼロ」「防災・減災」の3つの提供価値(ゴール設定)として定めました。具体的な数字を示したビジョンドリブン型のアプローチ。ここまで明記することこそが企業としての覚悟を感じることができます。東急建設はこのビジョンを起点に社内外の様々なプロジェクトを発足させています。

(2)Project(プロジェクトの発足)

表明するだけでは意味がありません。行動を伴わないメッセージは、むしろウォッシュとして見られブランドが毀損する可能性も。だからこそ、このパーパスに沿った具体的な取り組みを進める必要があります。

ブランドに関する調査である「MEANINGFUL BRANDS REPORT 2021(Havas)」からは、シビアな実態が浮き上がりました。

MEANINGFUL BRANDS REPORT 2021(Havas)

この調査では、71%の消費者が「ブランドが約束を果たすとは思えない」と回答していることが示されています。一方で、73%の消費者は「社会と地球のために、ブランドは今すぐ行動を起こさなければならない」と考えており、64%の消費者は「利益のみではなく、目的のために行動することに評判のある企業から購入したい」と考えています。人々はシビアな目線でブランドを見ると同時に、企業の社会的な行動に大きな期待を抱いているようです。

「社会のため」という想いは言葉だけでは届きません。大事なことはその言葉が説得力を持って伝わるような具体的なアクション・プロジェクトを起こすことなのでしょう。以降では、それぞれのターゲットごとに具体的な内容を解説していきます。

「社会のため」という想いは言葉だけでは届きません。大事なことはその言葉が説得力を持って伝わるような具体的なアクション・プロジェクトを起こすことなのでしょう。以降では、それぞれのターゲットごとに具体的な内容を解説していきます。

■ 従業員
ブランドを進化させるには、ブランドの体現者である従業員への浸透活動が欠かせません。パーパスを策定し方針を定めたら、そのメッセージを従業員が理解し、共感してもらい、そこからさらに自分ごと化してもらう必要があります。例えば、セガサミーホールディングスのサステナブルウィークス。体験型研修や座学型研修、講演会、サステナブルフードの提供など全17のコンテンツを2週間実施し、グループ従業員のSDGs・ESGに対する意識醸成と理解促進を促したプロジェクトを行いました。

■ パートナー
パーパス実現のためには、自社だけでは難しい場合が多いと考えています。企業が手を取り合って新たなビジネスを広げるためには、ベンチャーを含んだ他社と協業できる仕組みづくりや意思表示が必要になります。前述した東急建設は「Tokyu Const GB Innovation Fund」というプロジェクトを始めています。これは、建設事業の変革と新規事業の創出をミッションに、「東急建設が培ってきた技術・ビジネス」×「新たなテクノロジー・アイデア」でイノベーションを起こし、スタートアップと共に成長することを目指すプロジェクトです。

■ 社会
企業が掲げるパーパスの実現に向け、企業のスタンスを示すプロジェクト。著名なものだとP&G(パンテーン)の「#この髪どうしてダメですか」が挙げられます。日本の「髪型校則」に関する問題提起のための議論のきっかけづくりとしてドキュメンタリー形式の映像の発信などを行ったプロジェクトです。これは、パンテーンのフィロソフィー(パーパス)である「あなたらしい髪の美しさを通して、全ての人の前向きな一歩をサポートする」を体現するためのプロジェクトでした。

■ 顧客
最終的には社会的な意義をビジネスへと実装させることが求められます。これは既存事業の進化、または新規事業の開発のどちらかになるでしょう。フレッシュハンドメイドコスメLUSHは、風呂敷リサイクルプログラムである「Knot Swap」を行いました。LUSHのオリジナル風呂敷である「Knot Wrap」をショップに持っていくことで、同じサイズの新しいKnot Wrapを半額で購入できます。これはLUSHのパーパスである「地球をよりみずみずしく、豊かな状態で次世代に残す」を体現した既存ビジネスの変革です。

ここまで4つのターゲットに対するプロジェクトの紹介をしてきました。これらのプロジェクトは、パーパス実現を象徴するようなシンボリック(象徴的)な施策ほど、ブランドの意志を説得力を持って伝えることができます。

(3) Process(プロセスの共有)

最後のフェーズはProcessです。「プロジェクト」は行う過程で社内外へと伝える必要があります。プロジェクトとプロセスの共有は常にセットです。具体的なアクションを行ったことで、どんな成果を得ることができたのか。逆にどんな課題が見えたのか。いい面ばかりを伝えても実情を知っている人からは白けた目で見られてしまう場合もあります。大事なことは情報の透明性と、誠実さ。そして現状に対して希望を見出し言語化することなのでしょう。結果だけでなくそのプロジェクト、企業活動におけるプロセスをステークホルダーと共有することで、ブランドのファンを集めることにつながるはずです。

共創優位性を目指す時代へ

サステナブルな時代において、競争優位性よりも共創優位性が重要になりつつあります。社会や地球環境における課題が顕在化するなかで、企業が描く未来・パーパスに対して、あらゆるステークホルダーが共感し共創関係を構築することこそ今の時代に求められるブランディングのあり方と言えるでしょう。弊社も皆様の共創関係づくりを通じてサステナブルな未来に向き合っていきたいと考えています。