2025年2月13日と26日の両日、ELNETが主催する広報勉強会・コミュニティ「ELspot+(イーエルスポットプラス)」のセミナーに、当社の執行役員 ブランドコンサルティング部長の黒田天兵が登壇。「2025年こそ始めたいインナーブランディングの進め方」と題した講演を行いました。

インナーブランディングは3つのステップで進める

インナーブランディングとは、企業の価値や理念を社内(インナー)に浸透させ、従業員一人ひとりがブランドを体現できるようにする取り組みのこと。その重要性を理解していても、実際にどう進めればよいのか、分からない担当者も少なくないでしょう。

インナーブランディングとしての取り組みは、「STEP1:言葉づくり」「STEP2:浸透活動」「STEP3:相互理解」という3つのステップで進めます。継続して成長し続ける組織は、この3つの取り組みがきちんと実施できています。

STEP1:言葉づくり

まず行うべきは「言葉づくり」です。ここでいう「言葉」は会社の方針、いわゆる「企業理念」にあたります。企業理念は外部環境の変化があってもブレない言葉であり、企業の価値観、文化、強みを体現するものです。この言葉は主に7つに分類でき、それぞれを連動させることがポイントとなります。

理念体系は「MVV」から「PV」へ
ビジネスのあり方が時代に合わせて変化しているように、企業の理念体系も変わっています。これまで企業の理念体系は「MVV(ミッション、ビジョン、バリュー)」が一般的でしたが、現在は「PV(パーパス、バリュー)」へと変遷しつつあります。パーパスは「なぜ企業が存在するのか」という根本的な部分を示すものであり、企業活動の根幹となる普遍的な理念です。これからの理念体系は、パーパスを軸にして、それを実現するためにどう行動していくかという設計が必要になります。

言葉づくりのポイントは「従業員の巻き込み」
インナーブランディングの実施において、つくった言葉がどれだけ従業員一人ひとりに浸透するかが重要です。浸透しやすくするには、言葉づくりの段階からできるだけ多くの従業員を巻き込むことが欠かせません。なぜなら、従業員たちの想いが反映した言葉であるほど、理解、共感しやすくなるからです。

言葉づくりで従業員を巻き込む手法として、取材やワークショップが挙げられます。特にワークショップは、一度に多数の従業員が参加できるため、現場の従業員を巻き込む際に有効な手段です。

STEP2:浸透活動

言葉を策定したら、次のステップは「浸透活動」です。インナーブランディングで効果を出すには、策定した言葉を認知させるだけでなく、「理解」「共感」「行動」「定着」まで促す仕組みを整える必要があります。浸透活動は現場の課題に応じて4段階に分けられ、レベルごとに打ち手や論点が異なります。

浸透活動の具体的な施策
インナーブランディングにおける浸透活動には、「ファンクショナルな施策」と「エモーショナルな施策」があります。ファンクショナルな施策は、仕組みにすることで日常化する評価制度や人事研修などです。エモーショナルな施策とは、受け手の心に訴えかけるもので、ヒストリー映像やCM放映などがそれにあたります。どちらか一方の施策だけでなく、どちらの施策も行うことで高い浸透効果が期待できます。

下図の通り、施策にはさまざまな種類があり、「認知」「理解」「共感」「行動」「定着」「相互理解」のどの段階に対して効果を発揮するかも異なります。施策それぞれで、向き不向きがあるため、対象者や課題に応じて適切な施策を講じることが大切です。

浸透活動は「16%の前向きな層から巻き込む」
浸透活動を効率化し、効果を高めるには「変革に前向きな層から巻き込むこと」がポイントです。これは、インナーブランディングにおける「イノベーター理論」ともいえます。イノベーター理論とは、新しい製品やサービスが市場に普及していく過程を、消費者の特性に基づいて5つのグループに分類する考え方。この理論に則ると、インナーブランディングにおいて最も変革に前向きな層は「イノベーター」「アーリーアダプター」の2つです。

変革に前向きな層は、全体の16%と少数派です。だからこそ、組織を先導する立場であり、経営層と現場の橋渡し役としても機能する「管理職」から変革に取り組んでいくことが重要です。管理職を「イノベーター」「アーリーアダプター」に育てていくことが、浸透活動を促進させるコツといえます。

STEP3:相互理解

最後のステップは「相互理解」です。言葉づくり、浸透活動までは、会社からの一方向的な施策でした。ここからは従業員同士が気づきを共有し、その気づきを社内に波及させ価値を高めるステップになります。従業員一人ひとりの気づきが知恵となり、組織を強くしていきます。その結果、その企業ならではの価値やブランドが形成されるのです。

相互理解を目的とした施策には、下図のようなものがあります。浸透活動に一定程度取り組んだら、相互理解の施策も並行して進めてください。

ブランディングのゴールは「利益率の改善」

ブランディングを中長期的に考えた場合、「最終ゴールは利益率の改善」と捉えるべきでしょう。特にインナーブランディングは企業の成長のために必要と理解されていても、直接に売上や利益につながらないため、後回しにされがちです。

しかし、ブランドはそもそも一朝一夕には確立したり、浸透しないもの。例えば、社外向けのアウターブランディングで自社をよく見せて顧客の期待値を高めても、実際のブランド体験に乖離があると、「思っていたのとは違った」と顧客離れを引き起こす原因にもなるのです。

インナーブランディングによって内側から確立された「ブランド」こそが、顧客の「ブランド体験」に直結し、結果的に利益率の改善につながります。以下の関係性を把握することで、インナーブランディングが企業の利益を高めるために必須であることがより理解できるでしょう。

どうやって成果を測るのか?
インナーブランディングが後回しにされる背景には、成果を測る難しさもあります。実際にインナーブランディングを実施していたとしても、どうやって成果を測ればよいかがわからず、施策が形骸化していたり、成果が可視化できず、取り組み自体が頓挫するケースも少なくありません。

インナーブランディングの成果を測る指標は、以下のようにさまざまなものがあります。
・従業員満足度(ES)
・理念浸透度
・成長実感
・学習意欲
・モチベーション
・心理的安全性
・ウェルビーイング(Well-being)
・労働環境満足度
・健康
・eNPS(職場を親しい友人にどの程度推奨できるか)
・ロイヤリティ
・社内報へのアクセス数 など

多数の指標があるものの、重要なのは「どの指標を見ていくか」です。これまで述べてきた通り、インナーブランディングにはステップがあるため、取り組みを通してどの指標を継続的に見ていくかは、全体を俯瞰して戦略的に考える必要があります。

社内外で一体的なブランディングが不可欠

ブランディングは企業の価値を高めると同時に、利益を生み出す仕組みづくりでもあります。インナーブランディングだけに取り組んでいても、その企業がどのような素晴らしいブランドを持っているのかは外部には伝わりません。逆に、社外向けのアウターブランディングだけに取り組んでいると、企業が外部に浸透させているイメージと実態が乖離し、顧客満足度の低下を引き起こす可能性があります。

そのため、インナーブランディングとアウターブランディングと一体的に取り組むことが必要です。その取り組みを支援するため、揚羽はインナーブランディングとアウターブランディングを両輪で実施するための全方位ブランドコミュニケーション「バタフライモデル」を考案しました。この考え方は、インナーとアウターが矛盾しない言行一致型のブランドコミュニケーションの方法論であり、ブランディングの理想的なスタイルといえます。


「ELspot+(イーエルスポットプラス)」について

「ELspot+(イーエルスポットプラス)」は、株式会社エレクトロニック・ライブラリー(略称:ELNET)と株式会社プラスカラーが主催する広報勉強会・コミュニティです。広報同士の交流を深め、広報活動のアップデートを実践する場として2023年7月に開設。“広報のサードプレイス“をコンセプトに掲げ、ユーザー企業様同士の繋がりからこの場所でしか生まれない<企画型広報の創出>を目的に活動しています。