近年、「静かな退職」という言葉が注目を集めています。静かな退職とは、会社・業務への関わりを必要最低限に抑えて、それ以上の関与や努力はしない働き方のことです。実際には退職しないものの、仕事に対して消極的な姿勢のことを指します。この「静かな退職」という働き方は、近年日本にも広まりつつあります。

本記事では、「静かな退職」について日本の現状や起こる原因、静かな退職を防ぐ方法などを解説していきます。

「静かな退職」とは?

静かな退職とは、仕事に対する意欲や熱意がなく、必要最低限の業務のみ遂行するだけで、それ以上の努力や関与を避ける働き方のことです。2022年にアメリカのキャリアコーチによって提唱された言葉「Quiet Quitting」の日本語訳であり、Z世代を中心に話題となりました。

退職という言葉がついていますが、実際に退職するわけではなく、会社や仕事に対して積極的な関与を避けている状態を指します。

言い方を変えると「頑張りすぎない働き方」といえ、Z世代をはじめとした現代特有のワークスタイルといえます。

静かな退職の具体例
  • 指示された以上の業務はしない
  • 会議で積極的に発言したり、アイデアを出したりしない
  • 定時にすぐ退社する
  • キャリアアップを目指さず、現状維持にとどまる
  • 業務や会社での活動には最小限でしか関わらない

「サイレント退職」との違い

類似する言葉に「サイレント退職」があります。サイレント退職とは、なんの前触れもなく、突然退職することです。静かな退職との違いは、実際に退職してしまう点です。

サイレント退職が起こる主な原因として、職場環境や人間関係の問題が背景にあると考えられます。周囲に悩みや不安を打ち明けられず、抱え込みきれなくなる状態になってしまう人が多い傾向にあります。

海外だけじゃない!「静かな退職」日本にも広がっている

静かな退職は海外をはじめ、日本にも徐々に広がりつつあります。

アメリカの世論調査・コンサルティング会社「ギャラップ社」による、世界160カ国以上、12万人以上を対象にした調査では、59%が静かな退職に相当する働き方を選択していることが明らかになっています。

この調査では、仕事への関与について「打ち込んでいる」「打ち込んでいない」「積極的に関与していない」の3カテゴリーで質問を実施。「打ち込んでいない」と回答した人を静かな退職を選択している人としています。

ギャラップ社の報告書によると、静かな退職を選択する貢献度の低い労働者のコストは、世界で約1250兆円になると見積もられています。この数字は世界のGDPの9%を占めるともいわれ、社会経済への影響が大きいことがうかがえます。

日本の静かな退職の現状 |20代・30代の若手に多い

株式会社マイナビが実施した調査「正社員のワークライフ・インテグレーション(2023年実績)」によると、自身が静かな退職をしていると感じる人の割合は48.2%という結果がみられました。

回答者の約半数が「やりがいやキャリアアップは求めず、決められた仕事を淡々とこなす」状態であることが明らかになっています。

また、同調査では「できることなら働きたくない」と回答した人の割合は57%でした。これは、仕事への意欲や熱意が低い人の割合とも捉えられます。

なお、「Great Place To Work® Institute Japan」が実施した調査によると、静かな退職を実施している人のうち約3割は34歳以下の若手でした。

静かな退職が増えている原因

「静かな退職」というキーワードが出る前からも、静かな退職といえる働き方を選択している人は一定数存在していました。では、なぜそのような働き方を選択してしまうのでしょうか。具体的な原因を考察していきます。

働き方への価値観の変化

従来の日本社会は、ハッスルカルチャーといえる風潮でした。これは、仕事が人生の中で重要な位置付けであり、残業や休日出勤をいとわず全力で取り組む働き方です。

こうした働き方は上昇志向によりモチベーションが高まる一方で、燃え尽き症候群や過度なストレスを受けるといったリスクがあります。現代は、従来の働き方に疑問を持つ人も増え、その結果静かな退職が注目されているのです。

ワークライフバランスの重要性の高まり

前述したように、従来の日本社会ではプライベートを犠牲にして仕事に打ち込むことが美徳とされ、良しとされていました。しかし、近年は働き方改革も推進されているように、従来の働き方を変えていく姿勢がみられています。

株式会社マイナビが実施した調査「正社員のワークライフ・インテグレーション(2023年実績)」でも、仕事と私生活の充実に関する調査において「私生活と仕事の充実」に関係性があるとの回答は70%にものぼりました。

「Great Place To Work® Institute Japan」が実施した調査でも、静かな退職を選択したきっかけは「仕事よりプライベートを優先したいと思うようになったから」がもっとも多い回答でした。

単に仕事への意欲が低下しているというよりも、プライベートも充実させたい結果「静かな退職」を選択しているとも考えられます

企業への不満

企業に対する不満が静かな退職につながっているケースも少なくありません。

「Great Place To Work® Institute Japan」が実施した調査によると、入社後に静かな退職を選択している人が多く、そのきっかけとして「仕事よりプライベートを優先したいと思うようになった」に次いで多かった回答が「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)から」でした。

仕事に見合う正当な報酬やモチベーションにつながるインセンティブがないため、それ以上の働きをしないと決めている人も多いことがうかがえます。

静かな退職を選択する人の特徴 ・兆候

静かな退職を選択する人には、以下のような特徴・兆候がみられます。

特徴 兆候
  • プライベートを重視
  • 出世欲がない
  • 現状に満足している
  • 会社との関わりを最小限にしている
  • 指示されたこと、求められている以上の仕事をしない
  • 最低限のコミュニケーションしかしない
  • 社内イベントやチーム活動に参加しない
  • 会議で発言しない
  • 手を挙げない
  • 孤立している

わかりやすいのは、指示されたこと以上の仕事をしなかったり、会社や周囲との関わりを最小限に押さえているといったような行動です。仕事に対する意欲やモチベーションが低い場合もあれば、仕事よりもプライベートを充実させることの優先度の方が高いといった価値観が原因となる場合もあります。

そうなる原因が会社側にあるとは限らないため、一概に静かな退職を選択することが悪いこととはいえません。

静かな退職を防ぐには?企業ができる4つの対策

静かな退職を選択することが100%悪いというわけではなく、それがその人の人生観であるためどうしようもできない部分でもあります。

しかし、静かな退職を選択する人が増えてしまうと、社内のコミュニケーションが減ったり、他の社員に負担がのしかかったりと、組織に悪影響を及ぼしてしまいます。企業としては、できる限り静かな退職は防ぐ必要があるでしょう。

ここでは、そのためにできる対策をご紹介します。

評価制度と報酬を見直し、不公平感を解消する

公正かつ透明性の高い評価制度は、従業員の不満の解消に有効です。適切に評価されない環境では、意欲的に頑張ろうとは思えないでしょう。成果だけでなく、プロセスや仕事への姿勢も評価することで従業員のモチベーションを高められ、静かな退職を回避できます。

あわせて、報酬制度も公正かつ明確にし、仕事や成果に対する適正な報酬を提供する仕組みも整えることが大切です。

エンゲージメントを調査し、課題を可視化する

静かな退職を選択する人は、エンゲージメントが低い状態にあります。企業に対してなんらかの不満を抱えていることが原因でエンゲージメントが低い場合には、その原因を把握して改善に取り組むことが不可欠です。

そのためには、定期的にエンゲージメントを調査し、従業員の不満を把握する必要があります。そこに対する改善策を講じることがエンゲージメント向上につながり、仕事にも意欲的に取り組めるようになります。

多様な働き方を導入し、柔軟性を確保する

リモートワークやフレックスタイム、育休の長期化や時短勤務など、多様な働き方があることで、プライベートを重視した働き方を叶えやすくなります。自分にあった働き方を選択できることは生活の充実につながり、結果、仕事にも意欲的に取り組みやすくなるでしょう

職務範囲と役割を明確化し、負担を軽減する

職務範囲を明確にすることで、従業員は自分の役割や責任を理解した上で仕事に取り組めるようになります。とりあえず目の前の業務だけを淡々と仕事をこなすという姿勢の改善につながり、静かな退職の防止にも有効です。

「静かな退職」を防ぐにはエンゲージメント向上と社内施策が不可欠

静かな退職を促進する大きな要因の一つに、エンゲージメントの低下があります。エンゲージメントとは、「誰か・何かに貢献しようという意欲」のことです。従業員が企業に抱く愛着心や貢献度の高さ、会社とのつながりとの強さとも言い換えられます。

エンゲージメントは、高めることが可能な指標です。対策で挙げたように、まずは従業員のエンゲージメントを把握するところから始めましょう。

エンゲージメント向上に重要な「インナーブランディング」

エンゲージメント向上に有効な施策として、インナーブランディングが挙げられます。

インナーブランディングは、自社の従業員を対象にブランディングを実施することです。従業員の育成やインセンティブ、福利厚生の充実といった、従業員への投資もインナーブランディングの一つです。

インナーブランディングの基本は、従業員に企業理念や将来のビジョンを伝え、共感を得ることにあります。企業理念や将来のビジョンが明確かつ浸透している状態では、自分の仕事がどう会社に貢献できているのかを実感できるようになり、意義を持って仕事に取り組め、貢献意欲が高まります。

まとめ

「静かな退職」は、実際に退職はしないものの、生産性を低めてしまう働き方です。従業員側は会社や業務への過度な関与を避けることで、プライベートを重視できたり、仕事へのストレスを軽減できたりするといったメリットが得られるでしょう。

しかし、企業からすると従業員のエンゲージメントや生産性が低下するなど、ネガティブな影響を受けてしまいます。

「静かな退職」を防ぐ方法として、インナーブランディングが有効です。具体的な施策として、企業理念の浸透や従業員への投資といった方法が検討できます。インナーブランディングを実施する上では、まず自社のどこに課題があるかを明確にすることがポイントです。エンゲージメント調査も実施し、自社の現状と理想の姿を明確にした上で取り組んでみましょう。

揚羽では、現状調査から課題設定、具体的な施策の検討・実行まで、一気通貫での支援を提供しております。従業員エンゲージメントに課題がある、インナーブランディングの実施を検討しているという場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

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