理念浸透は企業の持続的な成長につながる

企業理念の浸透は、企業活動の根幹を支える重要な要素です。理念が社内にしっかりと定着して、従業員一人一人の意思決定や行動の指針となることで、組織としての一貫性が生まれ、持続的な成長へとつながります。また、理念が共有されることで、部門だけでなく、国を超えたグループ企業との協働が促進され、企業文化の醸成にも寄与します。

しかし、国内外に広がるグループ企業への理念浸透は、そう容易ではありません。国や地域の文化などによって価値観が異なるため、同じ理念でも受け取り方が違ってしまう可能性があるからです。企業がこれまで受け継いできた理念と、そこに込められた真意を、広く従業員に浸透させるには、どのようなプロセスとアウトプットが必要になるでしょうか。

今回は、140年間受け継がれてきた歴史と、企業理念に込められた真意をひもとき、国内外約200社の従業員に理念浸透の映像を発信したプロジェクト事例をご紹介します。

【ケーススタディ】日本郵船株式会社

1885年に創業し、約140年の歴史を持つ大手海運会社の日本郵船株式会社は、2023年に新中期経営計画を発表。新たな中期経営計画の目標達成のためには、グループ経営の推進が不可欠でした。また、同社のグループ企業理念である「Bringing value to life.」の実現に向け、国内外約200社に及ぶグループ全体の一致団結も必要でした。

企業理念の「Bringing value to life.」は、「もの運び・価値運びを通じて世界中の人々に、より豊かな生活をもたらす」という、同社グループの目的・存在意義を明示したものです。従業員はこの言葉そのものは認知していましたが、そこに込められた想いまでは浸透していませんでした。また、創業時から大切にされ、受け継がれてきた企業理念が、時代が進むにつれて薄れてきていることが懸念されていました。

そこで同社は新中期経営計画の目標達成のために、グループ企業理念の浸透を改めて強化するためのタスクフォースを組成。映像制作プロジェクトを開始しました。

歴史と創業者の想いをリンクし国内外の従業員に企業理念を訴求する映像を制作

理念浸透の映像は、国内外全グループの従業員が対象となります。創業時からの歴史と、同社が所属する三菱グループの創業者である、岩崎彌太郎氏の想いをひもづけて、「Bringing value to life.」の認知と理解を促すことを狙いとしました。

「Bringing value to life.」の源流は、岩崎彌太郎氏の時代から続いている、価値を運び、社会を支えることへの使命感と志です。これらによって、同社は激動の時代を乗り越えてきたのです。取り巻く環境が大きく変化している現代においても、「Bringing value to life.」の想いは共通しています。しかし、現在の同グループの立場ともひもづけて、「Bringing value to life.」を伝えているコンテンツが乏しい、という状況がありました。

そこで、本プロジェクトが達成するべきゴールは、「Bringing value to life.」の存在や意味を、同社の歴史と岩崎彌太郎氏の想いも合わせて理解してもらうことと設定しました。この二つのことから現代に通じるものを抽出し、過去と現在をリンクさせて、理解を促す映像の構成を検討。さらに、国内外の全ての従業員が理解しやすい表現方法についても、検討を進めていきました。

まず、「なぜ今、理念が必要か」という理念の必要性の訴求とともに、同社の歴史に通じる日本海運の歴史と、岩崎彌太郎氏の自伝の紹介からスタートしました。日本海運の運命を左右するといわれた「激動の時代」に、同社の前身である郵便汽船三菱会社を創業した背景と、「激動の現代」をリンクさせ、グループ全体が一致団結するために理念が必要であることを訴求する構成としました。

「Bringing value to life.」の基となる岩崎彌太郎氏の言葉である、「我ら一艘の船を浮かべれば、世に一層の便をもたらし、その利は全人民の頭上に落つる理なり(*)」も併せて紹介。現代に受け継がれるべき岩崎彌太郎氏の想いと、企業理念「Bringing value to life.」のつながりを明らかにすることで、企業理念に込められた想いや、従業員が大事にするべき使命感を分かりやすく伝えることを目指しました。

(*)この言葉は、日本郵船にて一部意訳しています。

日本郵船 Bringing value to life. 浸透

グループ企業理念の「Bringing value to life.」

理念浸透映像

映像の冒頭では、これまで積み重ねてきた同社の歴史の深さを表現しています。このシーンは、歴史を振り返っていくことを想起させるような、本のページをめくる表現を採用。視聴者の興味関心を引き、「この先を見たい」と感じてもらえるように工夫しました。

本編は実際の歴史をなぞっていく構成にしており、リアリティーを重視しました。そのため、ほとんどの素材は史実・史料調査に基づいた実物、または、極めて実物に近いものを選定。素材のリアリティーに徹底的にこだわったのは、映像を視聴した従業員が、岩崎彌太郎氏と同社の前身である郵便汽船三菱会社がつむいできた歴史を、より自分事として深く捉えられる効果を狙ってのことです。

さらに、素材をそのまま使用するのではなく、当時の描写がよりリアルに映るように全てトリミング。奥行きを意識するように編集したことで、立体的な視覚効果が生まれました。その結果、従業員は映像に引き込まれていき、最後まで退屈することなく、理念浸透の映像に没頭してもらうことが可能となりました。

日本郵船 浸透 映像

同社の事業領域をリアルに表現

国内外のグループ企業を含めた理念浸透のポイント

企業理念を国内外のグループ企業へ浸透させるためのポイントは大きく三つあります。

①視覚と感情に訴求する
理念をただ説明するだけでは、理解を促すのは困難です。ストーリー仕立てにすることで、従業員が感情的に共感しやすくなります。

②具体的な業務との結び付きを表す
抽象的な理念だけでは、それが自分の仕事とどのように結び付いているのか明確になりません。実際の業務や事例と関連付けることで、日々の仕事の中で理念をどう生かせばいいのかをイメージしやすくなります。

③一貫性を持たせる
各言語に対応した映像を作成することは必要ですが、内容を大きく変えずに全ての映像に一貫性を持たせることが重要です。この点を意識して映像をつくると、国や言語によって認識の食い違いが生じることなく、企業理念に込められた真意を全ての従業員に訴求することができます。

このように、国内外のグループ企業従業員に対して理念を浸透させる施策を行うことで、より強固な企業体が実現します。それは、従業員一人一人の働きがいや成長へもつながります。

今回紹介した事例の詳細は、こちらからご覧いただけます。

※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2025年4月号に掲載されたコンテンツの転載です。

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