企業統合を“新たな組織風土形成”のチャンスにする

「VUCA(※1)の時代」と呼ばれる現代は、これまでの事業活動では成長や発展が困難になると予想されています。そんな中、企業統合やM&Aにより新たなスタートを切るケースも多く見られます。これまでの歴史を受け継ぎつつ、新たな組織に生まれ変わるタイミングでは、両社の価値観のすり合わせなど、さまざまな課題が生まれます。しかしその一方、強固な組織風土を形成する機会でもあります。

今回は、2社統合を機に新たな経営メッセージや人事制度の全社浸透を通じて、新たな組織風土形成に伴走した事例について紹介します。

(※1)Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語。社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況を表現している。

【ケーススタディ】株式会社レゾナック・ホールディングス

旧昭和電工グループと旧昭和電工マテリアルズグループ(旧日立化成)は、株式会社レゾナック・ホールディングスおよび株式会社レゾナックとして、2023年1月に新たなスタートを切りました。

この完全統合に向け、同社では21年に指揮命令系統を統一し、コーポレート機能を統合。さらに22年に、経営体制の完全一体化と、新パーパス・バリューの策定およびグローバル全社への展開と、さまざまな組織改革が行われていました。その変革の一つに、「共創型人材」を創出するための人事制度の改定がありました。

旧昭和電工の幅広い素材の技術と、旧日立化成のアプリケーションに近い機能を発現する力を一気通貫にすることで、社会で求められる機能を創出し、イノベーションを起こすこと。それは社内にとどまらず社外のステークホルダー、顧客、ベンダーとの共創を通して、顧客の求めるものを作り出していくこと。これを可能にするのが「共創型人材」です。同社の価値の源泉は、そういった「共創」ができる「人材」にあるとし、同社に必要な人材を定義したのです。

このような人事諸施策の変化や新たな経営メッセージを、従業員に伝えるコミュニケーション設計の検討がなされていました。

どう伝えるかだけでなくどういう姿になりたいかを伝える

従業員とのコミュニケーションを実施するに当たり、「統合に対して従業員の気持ちがまだついてきていない」「統合により良い姿に変わろうとしているが、なかなかその期待感を伝えきれていない」といった課題がありました。

そこで、人事制度などをどう伝えるかだけではなく、インナーブランディング起点で、「新たなスタートを切ることで、どのような姿になっていきたいのか」という「What, Why」の部分を整理した上で、ストーリー性を持たせたコミュニケーション施策を実施しました。

まず、統合元の両社がこれまで大事にしてきたカルチャーや強み、さらには、組織を取り巻く事業環境に合わせて変えていかなければならないことを洗い出し、注力する必要のあるテーマと、そのための戦略や行動を検討。打ち合わせを重ねる中で、同社は二つの強みを有していることが明らかになりました。

一つ目は、パーパス・バリューを従業員に伝えるために、CEOとCHROが自ら拠点を回り、タウンホールミーティングやラウンドテーブルを実施するなど、「対話」を重視している点。二つ目は、これからの人と組織の在り方を表現する「キャリアのオーナーは従業員一人ひとり」や、まずは自分の手が届く範囲から共創関係を始めようという考えの「半径14mからの共創関係」など、従業員に対して会社としての想いを発するための「伝わる言葉」を持っているという点です。

これを受け、フォッグ式消費者行動モデル(※2)に基づき、コミュニケーション計画を立案。「トリガー」として行動を促す機会や、考え方を変えていく機会作りは、既に同社で計画していたため、「モチベーション」となる従業員の情緒に寄り添うエモーショナルなアプローチを企画しました。まずCHRO組織の従業員やCEOにインタビューを行い、会社として「ありたい姿」をストーリー化し、キャッチフレーズを開発しました。

一連の組織の変化により同社が実現したいことは、「一人ひとりもっと輝いていける」「自分自身に驚ける組織にしていく」ということなので、その想いをよりポジティブなイメージで訴求するために、キャッチフレーズをビジュアルで表現しました。さらに、言葉やビジュアルを社内に広く伝えるために、ポスターやスタイルブック(行動指針ブック)などのコミュニケーションツールとしても展開する他、人事制度の全てが分かるマニュアルとなる『デベロップメントガイド』の制作も支援しました。

また、新たなキャッチフレーズや人事制度を社外に発信することで、同社の考えに共感する人材の採用につなげるための、社外向けウェブページの制作など、幅広く展開させています。

(※2) 人は「モチベーション」と、行動するための「能力」、行動を起こすための「トリガー」の3要素がそろって行動するという考え方。

「ありたい姿」を言語化した、キャッチフレーズ

コンセプトビジュアル

インナーコミュニケーションの軸となるコンセプトビジュアルは、「自由に自分自身を表現するさまざまなポーズの人物イラスト」をポイントとし、今まで知らなかった自分を発見し、それに驚く様子を表現。また、性別・人種・障害など多様性を強く意識し、さまざまな人材が交わっていく様子を人物だけでなく、有機的な曲線やカラフルな色使いで表現しています。

株式会社レゾナック・ホールディングス様

コミュニケーションの軸となるキービジュアル

スタイルブック

コンセプトビジュアルをあしらいながら、新会社となることで何が変わっていくのかを、Before/Afterのイラストで視覚的に楽しく理解できるようにデザインしました。現状を否定するのではなく、今ある良さを生かしながら、「より良くするために変わる」というトーンで、変わらなければならない背景には何があるのか、そのために人事制度の方針はどう変わっていくのかということを、図やイラストを大きく配することで、分かりやすく伝えています。

社外向けウェブページ

新たに策定された人事制度やスローガンを社外に発信するためのウェブページは、ページを開いた際にコンセプトビジュアルの楽し気なイメージを表現する動きや、スクロールしたときに現れるメッセージの動きなど、見ていてワクワクするような構成を意識しました。また、並行して制作していたメッセージ映像やスタイルブックも掲載し、広く社外に情報を発信しています。

組織再編におけるブランディングのポイント

合併や経営統合など、組織を大きく再編する際は、企業文化や理念、ビジョンの異なる組織が一つになるため、継承すべきブランドイメージや新たな価値、ビジョンなどを擦り合わせる必要があります。これまでのブランド価値に共感しているステークホルダーもいるため、両者が培ってきたイメージをうまく融合させることも大切です。

今回紹介した事例の詳細は、こちらからご覧いただけます。

※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2025年2月号に掲載されたコンテンツの転載です。

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