周年は企業の「らしさ」を再確認するチャンス

周年は企業活動の節目となる貴重な機会です。企業の「らしさ」や「DNA」を再確認し、これまでの歴史を振り返りながら、社内外の全てのステークホルダーに向けて、感謝やビジョンを発信するチャンスと言えます。また、周年をきっかけに、現時点での課題や目指すべき方向性を明確にすることは、企業ブランドの価値の向上にもつながります。

では、周年にはどのような施策に取り組み、どのようなプロセスをたどればよいのでしょうか。

今回は、周年を機に自社を取り巻く全てのステークホルダーに、創業時の想いや経営理念の真意を浸透、深化させ、新たな100年に向けて歩みを進めるプロジェクトに、当社が伴走した事例をご紹介します。

【ケーススタディ】パーソルテンプスタッフ株式会社

パーソルテンプスタッフ株式会社は人材派遣、人材紹介、紹介予定派遣、アウトソーシングなど、人材と仕事に関するあらゆるソリューションを提供する、業界最大級の総合人材サービス会社です。2023年に創立50周年を迎えたのを機に、社員、派遣スタッフ、パーソルグループ各社社員、クライアントなど、同社に関わる全てのステークホルダーに、創業時の想いや経営理念の真意を浸透、深化させ、次の100年へ歩みを進めるプロジェクトを始動しました。

ただの周年事業で終わらせない3カ年プロジェクトへ

周年事業を通して何を伝えるかを規定せず、単発的な施策のみで終わらせてしまったら、期待するような効果は得られません。本案件では具体的なコミュニケーション施策を検討する前に、プロジェクトメンバーが中心となって、経営層、同社の歴史を知る長く勤めている社員、若手社員にインタビューを実施しました。そして「As is / To be」のフレームワークを活用し、同社の現状と、周年事業を通じて目指したい姿について議論を重ね、整理しました。

その結果、目指す姿を「全社員が経営理念をフレーズとしてだけでなく、創業者の“想い”、“企業姿勢”としてより深く理解している状態」と設定。また、50周年をただ祝福するだけにとどまらず、「これまでを振り返り、創業者の想いや企業理念を継承する」「未来に向けて進化する」「未来を創造していく」という指標の下、感謝を伝えて、同社で働くことへの誇りを醸成する3カ年プロジェクトとして位置付けました。

次に、社内外の各ステークホルダーの3カ年での感情の変化や行動を整理し、これらを踏まえた施策ごとのターゲットと目的を設定。それぞれの施策を企画、実施していきました。

「これまで」を継承し、働く人の誇りやエンゲージメントを高める施策

22年10月から23年7月は3カ年プロジェクトの1年目とし、「過去を継承する期間」と位置付けました。これまで継承されてきた経営理念をより深く理解、共感してもらい、同社で働くことの誇りやエンゲージメントを高める施策を実施しました。メインに据えた施策は以下の四つです。

周年記念ロゴ

創立50周年を社内外に周知させ、機運を高める記念ロゴを制作。レインボーカラーの無数の輪が集まり、「50」を形成するデザインは、一人一人の多様な働き方、生き方を応援する同社の想いを象徴しています。この「50」に集まる無数の輪は、さまざまな価値観を持った人を表しており、同社がその人たちを社会と結び付け、価値を生かし、明るい未来社会を創っていく姿を表現。レインボーカラーは明るい多様性や可能性を表しています。

このロゴは、社内に50周年を周知するためのポスターなど、さまざまなツールに使用しました。

イントラサイト

50周年を迎える1年前に、イントラサイトを開設。毎週、周年にまつわるコンテンツを更新し、当日まで社員の気持ちを高めるとともに、それ以降もこれまでを振り返るための施策として運用しました。

同社を支えた功労者やキーパーソンへのインタビュー記事や、経営層から社員への感謝のメッセージ、創業者の篠原氏を身近に感じてもらうための名言漫画コンテンツなどを用意。楽しく、分かりやすく会社の過去を知り、誇りに感じてもらえるようなコンテンツを配信しました。また、後述する感謝祭実施後は、感謝祭のレポートや当日のアルバムを掲載。感謝祭で一つになった想いを、次の100年につなげるためのコンテンツを企画しました。

社外向け特設サイト

50年の軌跡から未来への展望を、社外のステークホルダーへ広く伝えるために、50周年特設サイトを制作。単に歴史を伝えるだけではなく、創業時の想いから現在、未来へとつながるコンテンツを展開することで、「これまで」を継承していくという目的を意識したものにしました。

感謝祭(イベント)

過去の継承である1年目の集大成として、大阪と東京の2カ所で、全社員を対象としたオフラインイベントを実施しました。

会場には、過去を体感できるさまざまな展示を行いました。創業当時の時代背景と同社の歩みを振り返る「ロング年表」は、自由に踊り、飛び出したリボンなどをあしらい、ポップで楽しそうな雰囲気を作り出すことで、これまでを明るく振り返り、誇りを感じられるようにしました。

また、新入社員一人一人が意気込みを宣言するパネルも設置。これは、意気込みを表明することで自分を鼓舞するとともに、同僚の決意に共鳴することを意図したものです。

感謝祭のメインイベントである式典においても、過去の継承を意図したコンテンツを用意。同社社長によるオープニングスピーチでは、これまでの感謝の気持ちと、これからの決意を込めた熱い想いを、社員に直接訴えかけました。また、創業者の生い立ちや、同社の成長を描く特別映像では、過去に当社で撮影した創業者の映像を織り交ぜることで、人となりや言葉遣い、生の声を社員に感じてもらい、創業者のDNAを一人一人に継承することを目指しました。

本プロジェクトで行った施策の効果は高く、感謝祭開催直後5日間のイントラサイトは、平均3000PV/日。約半数の社員が閲覧していました。感謝祭の内容に関しても、開催後のアンケート調査で、90パーセントを超える満足度を獲得しました。

感謝際の会場に掲示された、新入社員一人一人の意気込み(上)とロング年表(下)

周年プロジェクトの目的と基本

周年プロジェクトには「理念浸透」「エンゲージメント向上」「商機開発」「認知度向上」という、四つの目的があります。どの目的に沿って周年プロジェクトを実施するかは、企業の経営課題によりますが、共通しているのは、「周年を通して何を伝えるか」を定めることが重要、ということです。

「これまで」を振り返り、自分たちは何者と言えるのかを定める。さらに、未来へ向けた「ありたい姿」を整理し、周年を通して伝える。このように、ステークホルダーから選ばれる理由を作る活動こそが、周年プロジェクトと言えるのです。

今回紹介した事例の詳細は、こちらからご覧いただけます。

※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2024年12月号に掲載されたコンテンツの転載です。

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