VUCA時代に求められる「パーパス」策定

近年、「何のために自社は存在するのか」「顧客や社会に対してどのような価値を提供するのか」という企業の存在意義である「パーパス」を掲げる企業が増加傾向にあります。目まぐるしく変化を続けるVUCA(※)の時代において、パーパスは企業の確固たる軸となる上、全ての社員が同じ方向を向くための旗印となる、非常に重要な企業施策です。

しかし、パーパスは社員や顧客、地域社会といったあらゆるステークホルダーから共感・賛同を得られるものでないと、言葉だけが独り歩きしてしまい、効果を発揮しにくくなる恐れがあります。では、どのようにパーパスを策定することが望ましいのでしょうか。今回は、周年を機に全社を巻き込み、パーパスを策定した事例について紹介します。

(※)Volatility・Uncertainty・Complexity・Ambiguityの頭文字を取った造語。社会やビジネスにとって、未来の予測が難しくなる状況を表現している。

【ケーススタディ】JFEシステムズ株式会社

JFEシステムズ株式会社は、JFEスチール株式会社を親会社に持つ企業です。JFEグループおよび製造業をはじめとしたお客さまに向け、情報システムの企画、設計、開発、運用、保守を提供するとともに、特徴あるソリューションや自社プロダクトを活用したシステム構築を事業とする、システムインテグレーターです。

同社は、2023年9月に設立40周年を迎えました。これを機に、改めて自社の存在意義と今後目指す方向を明確にし、日々の業務の中で意識できる自社らしい「仕事に向かう際に基軸になる言葉」を、全社員で共有することを目指しました。

さらに、顧客やビジネスパートナーなど、ステークホルダーに広くメッセージを発信することも検討。既存の企業理念を刷新し、パーパスを核とする新たな企業理念体系(パーパス、バリュー、行動指針)を策定するプロジェクトを立ち上げました。

全社員を巻き込んだ臨場感のあるパーパス作り

今回のプロジェクトで重要視されたのは、プロジェクトメンバーだけで完結させず、全社員を巻き込んでパーパスを策定することでした。

先述の通り、パーパスはあらゆるステークホルダーから共感・賛同を得られる言葉であることが非常に重要となります。そのため、今回のパーパス策定に向けた同社のブランド価値整理は、インタビュー調査、社員ワークショップ、社員アンケート調査を実施し、広く社員を巻き込みながら行うことになりました。

インタビュー調査では、まず社長や経営層に事業環境や同社の強み、実現したい社会について伺いました。しかしそれだけではなく、社外に提供している価値や期待を明らかにするために、顧客となる企業やビジネスパートナー、JFEグループ会社にもインタビューを実施しました。

社員ワークショップは、同社に根付いているカルチャーの観点からブランド価値を整理するために、現在の強みや価値(As Is)と、未来への強みや価値(To Be)を対話する場としました。ワークショップの実施に当たり、同社の全事業部・事業所から、次代を担う中堅社員を人選し、ワークショップにおいても広く社員を巻き込む方式を取りました。

社員アンケート調査は、同社の提供価値、自身が挑戦したいこと、会社としてどのような価値を提供していけるとよいか、大切にしている価値観・カルチャーなどの意見を引き出すことを目的に、約1600人の全社員を巻き込みながら実施しました。

こうした取り組みから得たキーワードを、企業のブランド価値を構造的に示したブランドストラクチャー(図1参照)を用いて整理し、コアバリューを導出。それを基にパーパスのフレーズを複数案作成し、最終候補案の中から最も共感・賛同できるフレーズと、その選出理由を問うアンケートも、全社員に向けて実施しました。その結果、最も支持された「はたらくをスマートに。はたらく人にスマイルを。」がパーパスとして策定されました。

図1 ブランドストラクチャー

このパーパスは、同社が提供するITで仕事を効率化することだけではなく、仕事自体が楽しくなることを切り口に検討されました。策定時の社員アンケートの定性的コメントでは、「スマート、スマイルの奥に隠れている可能性にワクワクを感じる」「人間中心というコンセプトに合致」という意見も上がりました。

またパーパス実践に向け、日々の仕事で大切にする価値観「バリュー」、パーパス実践に向けた行動の基本方針「行動指針」も策定し、一つのフレーズセットとして体系化しました。

同社の取り組みのユニークな点は、企業理念体系をシンプルに表現した「ブランドコンセプト(スマートフル⦅Smart+Heartful⦆IT)」を策定したこと。社内では「日々の業務で、パーパスを意識するためのフレーズ」として、社外では「同社が提供するITを象徴するフレーズ」として使用されています。

ブランドコンセプトロゴのシンボルマークに使われた五つの色は、同社のバリューがそれぞれに持つイメージカラーで、五つのバリューの実践がつながり、スマートフルITを体現している状態を表しています。「Heartful」を表現したハート形のシンボルマークには、「信頼や共感からなる人のつながり」を大切にしていきたいという意志が込められています。

ブランドコンセプトロゴのシンボルマークは、パーパスに込められた想いを伝えている「PURPOSE GUIDE BOOK」の表紙に掲載

策定プロジェクトをリアルタイムに発信

策定プロジェクトを実施する中で、同社の広報が主体となり、パーパス策定の道のりを、イントラネット社内報でリアルタイムに伝えました。さらに季刊で発行される冊子の社内報では、周年特集として3号連続で取り上げ、インタビュー調査などの内容を全社員に共有しながらプロジェクトを進行しました。また、このパーパス策定プロジェクトを「未来ソウゾウ会議」とネーミングしたことにより、社内から注目されるように。全社員がパーパス策定を自分ごととして捉え、高い熱量を持っていることが感じられました。

共感されるパーパスを策定する上で、プロジェクトの状況を逐一全社員に共有するというプロセスも、重要なポイントになります。自分が参加したアンケートがどのように使われるのか、どのような議論がなされているのかを伝えることで、社員一人一人が自分自身も策定プロジェクトの重要な一部であるという意識が醸成されます。

パーパス策定は全社を巻き込むことで、より強い言葉となる

企業の社会的存在意義であるパーパスは、策定の段階から全社を巻き込むことで、一人一人の共感値がより高い「パーパス」となり、求心力のあるものとなります。

今回紹介した事例の詳細は、こちらからご覧いただけます。

※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2024年10月号に掲載されたコンテンツの転載です。

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