インナーブランディング施策は二つに分類できる

前回は「インナーブランディングの重要性」について解説しました。今回は、実際にインナーブランディングに取り組む際の効果的な施策について考えてみましょう。

前回の振り返りになりますが、インナーブランディングに取り組む際は、まず自社の解決すべきテーマを抽出します。その後、従業員に理念などを浸透させるための課題を設定し、実際に取り組む施策を検討していく、という流れで進めます。

インナーブランディングの浸透施策は世の中に無数に存在しますが、大きく分けて二つに分類されると考えています。仕組みとして日々機能する「ファンクショナルな施策」と、従業員の記憶と心に訴えかける「エモーショナルな施策」です(図1参照)。

図1 インナーブランディングの2種類の施策

 

「ファンクショナルな施策」とは、仕組み化された施策のことです。例えば研修制度や評価制度、全社集会など、定期的に取り組む施策が該当します。従業員に対する強制力が強く、行動変容の促進や、一体感醸成が期待できるといった長所があります。その一方、聞き流される、一過性の施策になるといった短所もあります。

もう一つの「エモーショナルな施策」とは、従業員の心に訴えかけ、主体的な理解・共感を促す施策のことです。具体的には、理念やビジョン、パーパスをストーリーで伝えて理解を促す冊子、企業理念を体現している従業員のエピソードを紹介し、共感を誘う映像などが挙げられます。理念に関わる事象をさまざまな制作物に落とし込むことで、従業員が受け取りやすい情報となり、浸透を促します。

しかし、すぐには行動につながりにくい、内容と現実にギャップが生じる恐れがあるなどが短所として挙げられます。さらに、従業員が違和感を持つような表現や、既視感のある施策だと場が白ける可能性があるため、ターゲットの温度感を意識し、過去の施策や他社の施策との明確な差別化を図る必要があります。

図2に、それぞれの長所と短所をまとめました。これらを考慮し、目的に合わせて二つを組み合わせることで、高い効果を期待できます。

図2 二つのインナーブランディング施策の長所・短所

インナーブランディング施策の効果を高めるターゲット設定

インナーブランディングにおいては、誰を巻き込んで浸透活動を推進していくかという、ターゲット設定が重要になります。その際、「イノベーター理論」に基づいたターゲット設定が効果的です。「イノベーター理論」は消費者を五つの層に分類し、新商品やサービスがどのように普及していくかを分析するものですが、この考え方はインナーブランディングでも有効です。

組織内で改革を起こすためには、既にその活動に取り組んでいる人(イノベーター)と、取り組みたいとは思っているけれどチャレンジできていない人(アーリーアダプター)に焦点を当てることが重要です。そして、この二つを合計した割合が、従業員全体の16パーセントになることを目安にして活動すると、組織全体が改革を推進する風土へと変わっていくと考えられています(図3参照)。

この「イノベーター理論」を踏まえたターゲット設定が、インナーブランディングを成功に導くカギとなります。

図3 イノベーター理論

浸透度合いに合わせた施策を検討

インナーブランディング施策はそれぞれに特性があり、前回紹介した「従業員の理念浸透度フェーズ」ごとに、効果の度合いが異なります。そのため、自社従業員の理念浸透度を正しく把握し、効果的なインナーブランディング施策を検討することが重要です。

図4は、「理念浸透度フェーズ」に伴うインナーブランディング施策の効果と、長所・短所についてまとめたものです。参考にしてください。

図4 理解浸透度フェーズごとの施策の効果度合い

おわりに

インナーブランディングにはさまざまな種類の施策があり、目的に応じて適切に講じることが成功へのポイントとなります。次回からは、弊社が支援したインナーブランディングの成功事例についてご紹介します。

※本記事は、月刊会員情報誌「コミュニケーション シード」2024年6月号に掲載されたコンテンツの転載です。

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