インナーブランディングを実施する手法の1つにブランドブックがあります。ブランドブックは企業の存在意義や目指す未来、提供する価値などを言語化・ビジュアル化した小冊子であり、従業員に深い理解と共感を促すことが可能です。

今回はブランドブックとは何かをふまえて、制作のポイントや成功事例をご紹介します。

ブランドブックとは

ブランドブックはインナーブランディングを実施する手法の1つであり、企業が従業員に対してブランドの価値や目指す方向性の理解を促すために作成する小冊子です。対話だけでは伝わりにくい部分も文章やイラスト・図などから視覚的に理解しやすいといったメリットがあります。

理念や方向性が従業員に浸透することで同じビジョンに向かう一体感が醸成され、組織力の向上に期待できます。また、ブランドブックは理念やビジョンを浸透させるだけでなく、成果実現に向けたアクションを起こすためのツールともいえます

「パンフレット」「配布物」とは別物であり、作成・配布して終わりにならないよう注意が必要です。

【資料ダウンロード】理念浸透の重要性とその浸透策

企業がブランドブックを作る目的

ブランドブックは理念の啓蒙や従業員の意識付けを目的とした、単なる配布物と捉えられることも多いツールの1つです。そのため、企業のブランド価値や理念、ビジョンを浸透させてアクションに落とし込むまでを視野に入れて作成することがありませんでした。

ブランドブックを効果的に活用し、インナーブランディングの効果を高めるためにもその目的を押さえましょう。

従業員の意識を統一するため

ブランドブックは、従業員に企業の理念や目指す方向性を理解してもらうための指針的な役割があります。同じ目標に向かって組織が一体的に業務に取り組めるよう、ブランドへの理解と共感を深めることを目的に活用するものです。具体的には、ブランドのコンセプトやビジョン、成り立ちや歴史、目指す未来などを伝えます。

理念やビジョンに基づいた行動を促すため

ブランドブックの最大の目的は、理念・ビジョンに基づいた行動を日常業務に落とし込んでもらうことです。従業員自身が理念・ビジョンに基づいた行動であるかを自発的に考えながら、目標達成に向かってアクションできる状態が理想の姿です

ブランドブックにより、従業員は企業の想いを自分事として感じられるようになります。ブランドを作り上げる一員であることを自覚しながら、行動に迷ったときはブランドブックを読み直すことで理念・ビジョンに基づく正しい行動を選択することが可能です。

従来のブランドブックはブランド価値の「理解」に重点を置いていましたが、インナーブランディングの考え方が浸透しつつある近年では「行動」を促すことを目的としたツールに変化しています。

企業の魅力を伝えるため

ブランドブックは、従業員や社外のステークホルダーに企業の魅力を伝えるツールとしても機能します。

近年は消費者の価値観やニーズの多様化により、市場も急速に変化しています。かつ、市場は飽和状態にあり、類似商品・サービスが溢れる中で取引先や消費者に選ばれることが必要です。単に商品やサービスを良いと思ってもらうだけでなく、取引先や消費者にも企業ブランドに共感してもらい、自社のファンになってもらうことが重要です。

そのためには、従業員が自社の魅力を理解していることはもちろんのこと、消費者をはじめとした社外のステークホルダーに魅力を伝えることも大切です。たとえば、営業時に顧客にブランドブックを渡すことは企業の魅力を伝えるための有効な手段の1つになります。

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ブランドブックの構成要素

ブランドブックの作成にあたって決まったフォーマットはありませんが、理念・ビジョンやブランドを正しく伝えるには必要な要素を入れることが重要です。ここでは、ブランドブックを構成する要素をみていきます。

MVV

MVVとは、ミッション(Mission)・ビジョン(Vision)・バリュー(Value)のことです。MVVは従業員にとっての羅針盤・道標となる重要な要素であり、ブランドを構築する基本の要素ともいえます。MVVには、それぞれ以下のような役割があります。

 

ミッション(Mission) 企業が果たす役割・使命、存在意義
ビジョン(Vision) 企業の目指す未来、理想とする姿
バリュー(Value) 従業員が持つべき共通の価値観・あるべき姿、ブランドの提供する価値

 

従業員がMVVを理解していない場合、組織が一体となって目標に向かうことは難しいでしょう。MVVから企業の存在意義や目指す未来、価値観への理解・共感を得ることで同じ方向に向かって行動できるようになります。

ブランドコンセプト

ブランドの核となる考え方であり、ブランドの価値を言語化したものともいえます。ブランドコンセプトは「顧客にどのような価値を提供するブランドか?」といった視点から考えることがポイントです。ブランドコンセプトが曖昧だったり、端的に伝えられないものだと、人によって解釈が異なってしまう恐れがあります。簡潔明瞭に打ち出せれば、従業員にも顧客にも正しくブランド価値を伝えることが可能です。

ブランドメッセージ

ブランドメッセージは、企業や商品・サービスを象徴する要素です。キャッチコピーやキャッチフレーズ、コーポレートスローガンとも呼ばれます。企業の「らしさ」や世界観を端的に伝えるためのものであり、ブランドメッセージを目にするだけで何をしている企業か、企業が何を目指しているのかが想起しやすくなります

事業内容を反映したり、ビジョンを簡潔に表現したりとブランドメッセージは企業によって多種多様です。

 

企業のブランドメッセージ例

ロッテ お口の恋人
ダイキン 空気で答えを出す会社
AGC Your Dreams, Our Challenge
日立製作所 Inspire the Next
NEC Orchestrating a brighter world

行動指針

ブランドのビジョンを実現するための行動指針もブランドブックに欠かせません。行動指針は、理念やビジョンを理解した上で日常業務に落とし込むための指標です。従業員一人ひとりがブランド価値を提供・向上させるために、どう行動すべきかを明示する役割を持ちます。

ブランドロゴ・シンボル

ロゴやシンボルは、従業員や社外のステークホルダーがひと目みてブランドをイメージするためのデザイン要素です。ブランドブックでは、ブランドを視覚的にも訴求していくことがポイントです。デザイン・カラーにどういった意味や願いが込められているのかを伝えることでブランドデザインへの理解を深めることができます。

ブランドのこれまでとこれから

ブランドの成り立ちやこれまでの歴史を知ることは、ブランドへの理解が深まると同時に愛着も湧きやすくなります。そして、ブランドの未来に向けた「これから」の目指す姿を伝えることで、その実現のために従業員自身が「これからどう行動すべきか」を考える基準としても機能します。ブランドブックを作成する過程で「これから」の姿を従業員と一緒に考える機会を作ることは、一体感醸成の面でも効果的です。

ブランドのガイドライン

ブランドガイドラインとは、統一的にブランディングを進めるためのルール・行動規範です。ガイドラインがあることで、一貫したブランド運用を可能とします。

ブランドを確立するには、一貫したブランドコミュニケーションが欠かせません。一貫したブランドコミュニケーションによって従業員がブランドを正しく理解した上で企業活動に取り組むことができ、社外のステークホルダーに対しても効率的かつ統一的なコミュニケーションが可能となるためブランドの浸透を容易にします。

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ブランドブックの作り方のポイント

ブランドブックに正しい要素を取り入れることとあわせて、以下のポイントを意識することも大切です。インナーブランディングで高い効果を発揮するためのブランドブックの作り方のポイントを解説します。

簡潔明瞭な表現にする

従業員はもちろん、ブランドブックを手に取る可能性があるすべての人が理解・共感できる内容にすることが大切です。そのためには、簡潔明瞭で分かりやすい表現にすること、経営層のみで使用している共通言語や専門用語、見慣れない横文字は多用しないことを意識しましょう。ブランド独自の用語や従業員が理解しにくいと感じる業界用語には説明を入れるなど、読み手の理解を助ける工夫を取り入れることがポイントです。

組織にはさまざまな立場の従業員がいるため、すべての人が理解・共感できる内容づくりを意識して作成しましょう。

ルールを押し付けるような内容にしない

ブランドブックはルールブックではないため、具体的なルールや禁止事項を伝えることは避けましょう。従業員が「なぜそうすべきか」を理解した上で、自発的な行動を取れるようになることが重要です。そのためには理念・ビジョンを従業員に理解・浸透させ、積極的な行動を起こしてモチベーションが高まるような内容にすることが重要です。

多様なインナーブランディング施策と組み合わせる

ブランドブックはインナーブランディングを実施する手法の1つであり、ブランドブック単体でインナーブランディングを達成することはできません。また、ブランドブックを一度読んだだけですぐに理解・共感を深めることは難しく、行動を促すのはより難易度が高くなるでしょう。そのため、ブランドブックとあわせて、さらに理解を深めるような施策も組み合わせることがポイントです

ブランドブックをもとにした社内セミナーや勉強会、目標を立てる際にブランドブックも活用するなど、理解を深めつつ行動にも落とし込めるよう施策を広げていきましょう。

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ブランドブックの成功事例

弊社の支援実績から、ブランドブックの成功事例をご紹介します。

ルーツから未来までをストーリーで描いたブランドブック(ぺんてる株式会社)

ルーツから未来までをストーリーで描いたブランドブック(ぺんてる株式会社)

【制作の目的・背景】

ぺんてる株式会社は2016年に創業70周年を迎えたことを機に、未来のさらなる成長に向けて新たなビジョンを策定。ビジョンを社内外に浸透させ、ぺんてるのブランド力向上につなげていくことを目的にブランドブックを作成しました。社内外のあらゆるステークホルダーに向けて、ぺんてるらしいものづくり精神と実現したい未来に理解・共感してもらうことを目指しています。

【制作のポイント】

ビジョンのメッセージを企業のルーツから現在、未来につながるストーリーとして再定義した点がポイントです。企業が大切にする想いや歴史への理解・共感を促し、どういった想いを胸に未来につなげていくべきかをイメージしやすくしました。また、「未来」を伝えるページでは、誌上企画としてぺんてるの若手社員が「私たちの考える表現の未来」をテーマに取り組んだワークショップの内容を入れています。

ぺんてる株式会社のブランドブックの詳細

組合員を巻き込みながら制作する、エモーショナルなビジョンブック(住友化学労働組合)

組合員を巻き込みながら制作する、エモーショナルなビジョンブック(住友化学労働組合)

【制作の目的・背景】

住友化学労働組合は、組合運動の拠り所となる「新しい運動方針」を策定。あわせて、より共感を生み、主体的な行動につなげていくことを目的にブランドブックを作成しました。

【制作のポイント】

組合運動の合言葉となる「あいを、はぐくむ。」という言葉を読んだ時に湧いてくる「人と人の間にある温もり」や「場所・時間に関係なく誰かとつながっているという心強さ」を素直にそのまま受け取ってもらうため、華美な装飾はせずに必要最低限の要素に絞った静かなデザインに落とし込みました。ブランドブックを通して組合員同士がつながりを感じられるよう、全ページを通して線がつながるデザインを表現。言葉や写真、フォントや紙質にもこだわり、五感を通して組合員の想いが伝わるよう工夫しています。

住友化学労働組合のブランドブックの詳細

「企業らしさ」を言語化したブランドブック(株式会社ドワンゴ)

「企業らしさ」を言語化したブランドブック(株式会社ドワンゴ)

【制作の目的・背景】

株式会社ドワンゴは創業以来、経営理念やビジョンがありませんでした。経営者交代など抜本的な企業改革を求められている状況であったことからも、同社らしさを言語化する「言語化プロジェクト」を立ち上げました。言語化した言葉を伝える手段として、同社らしく「エンタメ性を持って」「読み手の視点で解釈し、それぞれの言葉で表現してもらえるように」することが望ましいと考え、物語仕立ての絵本形式でブランドブックを作成しました。

【制作のポイント】

言語化した言葉をドワンゴ様らしく伝えるため、シンプルなストーリーの絵本形式でブランドブックを作成。普遍的な「ドワンゴらしさ」として何年も残り続けるような冊子となるよう、あえてシンプルなデザインを取り入れた点がポイントです。最終ページには同社のコアバリューを記載し、一人でも多くの社員が読み切りたくなるような構成・デザインを取り入れました。

株式会社ドワンゴのブランドブックの詳細

ブランドブックを制作するなら

ブランドブックは従業員に理念やビジョン、ブランドの価値をわかりやすく伝え、理解と共感を促す手法です。最終的には、従業員が得た理解・共感に基づいて自発的に行動できる状態を目指します。従業員が自社を理解する指針となる重要なコンテンツであるため、正確にわかりやすく伝えることが大切です。

弊社では、ブランドブックを含めさまざまなインナーブランディング施策をご支援しています。ブランドブック制作では企業のニーズにあった企画・構成をご提案し、自社らしさを導出するためのブランドブック制作のご支援が可能です。ブランドブックを通して高いインナーブランディング効果を発揮するためにも、ブランドブックの制作は支援実績が豊富な弊社に一度ご相談ください。
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