日曜日、日本の伝統工芸である木版画の技術を現代まで継承されている「摺り師」の安達以作牟さんに、「摺り」を教わった。

木版画は、中学の工作の授業以来だ。
工作の授業では、江戸時代の火消しの纏を彫って、先生に「湊、上手いな!」と褒められた覚えがある。(ちょっとだけ自慢)

しかし、「摺り」は初めての経験。
木版画は、「彫り」と「摺り」があり、「摺り」とは、絵の具と版画と刷毛などの道具を使って、和紙に実際に色をのせていく仕事。安達さんは、77歳。6年目のお弟子さんも来られていて、手際よく、色をのせていく。

僕も実際に葛飾北斎の「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」をやらせてもらったが、本当に難しい。絵の具はのせてもらい、自分は摺るだけなのだが、全く色が出ない。
隣でやっているお弟子さんと何が違うのか、全然分からなかった。

77歳の安達さん曰く「はじめの1年間は、掃除だけ。で、先輩の姿を見て、『やりたくて、やりたくて、しょうがなくなってから』はじめて道具を持たせる。
そうすると、モチベーションが最高潮に達しているから覚えるのが早い。
今はそんなことやるとすぐにやめちゃうから、すぐにやらせちゃう。だから結局覚えるのに時間がかかるんだ。」と仰った。

「なるほど!」僕のそれまでの考えとは違うが、とても納得感があった。
僕は、ベテラン社員に、よくこう言っている。「『背中で覚えろ』なんて言ってたら、いつまでたっても覚えない。先輩は、自分の知識を惜しげなく後輩に提供しないといけないんだ」と。

しかし、安達さんのいうように、「やりたくてやりたくてしかたがなくなる」ようにすること。それが重要と感じた。

先輩が言葉で伝えなかったら、背中で教えるしかない。それは時間がかかる。
しかし、先輩が言葉を自在に操り、仕掛けを作ってやる気にさせれば、短時間でもモチベーションをあげることができる。

それが急成長に繋がる。

うちみたいに、教育に時間がかかるビジネスをする成長企業には、それをするしかないのだ。

一方、伝統の素晴らしさを実感する話を多くしてくださった。
外国から日本の版画を学びに来る方も多いそうで、その際安達さんは、「技術は教える。しかし、帰国したら、紙や絵の具、道具は自分の土地のものを使いなさい。それがあなたの故郷の文化になるのです」と話されるそうだ。
また、伝統技術と言っても、完成されたものではなく、ある程度ものになったら、その後は、摺り師の個性を活かすフェーズに入る。
極端に言えば、「赤富士」も、摺り師が「碧い」と感じたら、色を変えてしまってもいい。そう仰った。

今まで伝統技術に触れる機会はほとんど無かったが、その道を極めた方はその経験から、人の心を揺さぶる言葉を持っている。
経営者の先輩から学ぶだけでなく、多くの素晴らしい方々から学んでいきたい。
また、社員にもそんな機会を作ってあげたい。